三十一
今日は八月最後の日。
最後の日だというのに夏はもう諦めたかのように涼しかった。
早くアウターが着たい。
冬になればまた夏が恋しいと言うのに。
疲れすぎて眠って自分の住んでいる駅を通り越した。
急いで二つ先の駅で降りる。
ちょうど向かい側に桜上水行きの終電がやってきた。
ふらふらになりながら帰って、シャワーを浴びて床についた。
時刻はもう3時を過ぎていた。
朝は9時半ごろに起きていたと思う。
高校生くらいまでは午後まで寝れていたのに、たくさん寝たいと思っていても寝ることができない。
今日はいろいろ周るところがある、急いで支度をする。
12時を16分過ぎて上野に着く。
久しぶり、11日ぶりに彼に会う。
髪の毛はボーボー、髭もボーボー、発泡まみれ、はっきり言ってあんまりカッコーは良くなかった。
久しぶりに会っても普通に話はできるもので、変な感じがした。
私が言うことに笑ってくれると、とても安心した。
パクチーはやっぱり食べれないようで全部食べてあげた。
久しぶりに太ももを触られた、付き合った日としたあの日を思い出した。
私もなんか安心した。
前みたいなときめきとか、イチャイチャとかそういうのはおさまったけど、とても良い心地がした。
夫婦ってこんなもんかなぁと思った。
目に見えたり肌で感じるような、わかりやすい好意っていうのはないけれど、なんとなくお互いの深いところで必要としあっていて、そして好きと思っている。
話した時間は1時間だけだったけど、とても充実していた。
ふざけてキスを求めたら案の定してくれた。
そんなところが好きだったりする。
そういうところが鬼のわがままな彼の、唯一優しいところかもしれない。
さっさとこっちも振り返らず彼はまた作業に戻っていった。
反対方向に足を向けて大学美術館に行く。
ところどころ、というかほとんど欠けた仏像が迎えてくれた。
とてもかっこ良かった。
写真を撮ることはできないがどれも良い作品だった。
大学の歴史も知ることができて面白かった。
次に深海展に向かう。
大学生と言う勇気は出ず、一般料金を払った。
大学も一般も結局同じ料金だとあとから知った。
1600円は少し浪人生には痛い。
中へ入る。
夏休み最終日なのか、子供がたくさんだった。
ずっとイヤホンをつけて音楽を流しながら見ていたので、たくさんの人にぶつかった。
というか人が多すぎた。
人が多すぎて何も見る気がしなくなって10分くらいで外に出た。
少しだけ写真は撮った。
綺麗に撮ろうを思っても、子供が記念撮影をしたりでイライラしたりした。
深海の生物が、ホルマリン漬けになって展示されていた。
それはとても奇妙だった。
まばゆい光を当てられて陳列されていた。
本来の姿はどこにもなかった。
ダイオウグソクムシの私と同じくらいあるぬいぐるみは27万円だった。
等身大しろたんはシリアルナンバー入りで4、5万円だったのにな。
杉戸先生の展示に行く。
自分とは全くタイプの違う人の展示だ。
最初は別に行けなくてもいいやと思っていた。
400円のこの半券でもう一度見ることができるらしい。
今度またきてもいいなと思った。
作品自体がいいのかとかはまだ未熟だからよくわからなかったし、どれが好き!というのもあるわけでもないけれど、終始ニヤニヤしていた。
まずすべての作品にキャプションがない。
全くもって観る人は放置される。
それはとても不安になるけれど、本来美術ってそういうものかもしれない。
よくは考えてないし、今の発言が結構テキトーで浅はかなもの。
絵なのに壁に設置しないで床置きされているのも多数あった。
こんなすごい美術館でそんなことを自由にやってのけてる感じがいいなぁと思った。
そして観る人も振り回されっぱなしだ。
とても大きな作品があった。
とてもきになるけれどもちろんキャプションはない。
木で組み立てられていてモザイク画のように木や陶器が何列にも並んでいる作品だ。
ふとその作品の裏を見る。
木でどうやって組み立てられているのか見ることができる。
そして作品が置いてある。
小さい作品、一見何かの破片にしか見えない端材や、古い写真など。
隣にも作品と作品の隙間によくわからない作品が置いてあった。
しゃがまないと見ることできない。
いい気持ちで展示に振り回された。
作者の感じも前お話して少し知っているから、相まってとても心地よかった。
お給料が今日は入った日だった。
ATMにお金を入れてると、すぐに使いたい時に出せるので最近はうちで管理してる。
でもやっぱり手元にお金があるとすぐ使ってしまうもので。
コートとバッグを買った。
はやく冬が来て欲しい。
明日はサンシャワーの続きを見に新美術館の方に行く。
そのあとはまた細々したものの買い出しなどに。
そしてバイト。
一人で行動するのはいいことだ。
ずっと彼と一緒に行動することが多かった。
また違った幸福感がある。
さあ、九月だ。